# BLOG
2025.11.192025.11.26

都市も地域も豊かになるエコシステムと事業仮説を探求する。リサーチプロジェクト「POST GROWTH CITY LAB」初期発表会レポート


人口減少社会において、これまでの延長線上では語れない「都市や町のあり方」を探求するリサーチプロジェクトが動き出しました。日鉄興和不動産株式会社「Future Style総研」と株式会社Zebras and Company(以下、Z&C)が立ち上げた、「POST GROWTH CITY LAB(以下、PGCL)」です。

このプロジェクトが目指すのは、地域において「より少ない資源で、より大きな豊かさ」を創り出すために、新しい事業や投資機会を見つけること。単なる「成長=拡大」ではなく、「成熟=アップデート」を目指す地域づくりとして、既存ストックのリノベーションや新しいコミュニティデザインなど、さまざまな解決策を模索していきます。

PGCLの共創パートナーには、不動産開発を中心としたまちづくりを行う株式会社NEWLOCAL、持続的にイノベーションが起こる生態系を研究・実践する株式会社リ・パブリックを迎えました。マクロな視点での構造分析と、現場でのフィールドリサーチを往復しながら進めていきます。

PGCLの初期発表会では、初期仮説とフィールドリサーチ第1弾の内容が共有されました。登壇したのは、日鉄興和不動産の佐藤有希、Z&Cの阿座上陽平さん、NEWLOCALの石田遼さん、リ・パブリックの市川文子さんと田村大さん。都市と地域が共存する新たなエコシステムの構築に向けて、プロジェクトの現在地とこれからの展望をお届けします。

 

未来から逆算した事業創造を目指す「Future Style発想」

冒頭、日鉄興和不動産の佐藤より、Future Style総研の設立背景と本プロジェクトの立ち位置が説明されました。同総研は、住まい方だけでなく、働き方や休日の過ごし方など暮らしのあらゆる場面において、未来から逆算した事業創造を目指しています。

 

佐藤「社会の変化に対応し、価値ある不動産を提供し続けるためには、未来を能動的に捉えて逆算する必要があり、私たちはそれを『Future Style発想』と名付けました。Future Style総研は、この発想を発見(INSIGHT)し、構想・実装(INCUBATION)につなげ、社会に浸透・共有(INSTALLATION)するための研究所。PGCLは、その活動の基盤になるリサーチプロジェクトです」

 

 

大都市・中堅都市・農山漁村がつながるエコシステムをつくる

続いて、Z&Cの阿座上さんより、プロジェクトの背景となる仮説が示されました。本プロジェクトのテーマは「人口減少時代における、都市も地域も豊かになるエコシステム研究」。阿座上さんは、都市と地域の関係性を構造的に捉え直す必要性を説きます。

 

 

阿座上さん「地域から都市への人の移動は、年々増えています。しかし、エネルギーや食料は地域でつくられている。つまり、地域から人がいなくなれば、都市も今の状態を維持することは難しくなります。『地域が細れば、都市も細る』という前提で、『都市・地方共存型のエコシステム』を考える必要があります」

  

 

ここで重要な観点として挙げられたのが「システムチェンジ投資」と「ポートフォリオ戦略」です。

阿座上さん「PGCLでは、課題を解決するだけでなく、『課題が起きないようなシステム』に変えていく投資や事業づくりを目指したいと思います。また、地域課題を解決する取り組みを、徐々に大きくしていくことで、都市の課題解決にもつなげていきたい。加えて、『大きな都市には短期で回す投資、小さな地域には長期で回す投資』といったように、地域カテゴリごとに、投資ポートフォリオを組めないかと構想しています」

 

 

PGCLが目指すのは、「経済を回す大都市」「文化を育む中間都市」「農山漁村」が循環するエコシステム。その一歩目となるリサーチの結果を、ここからお伝えします。

 

AIを駆使したマクロリサーチ。地域のレバレッジポイントを探る

構造設計やデスクリサーチ(マクロリサーチ)を担当したNEWLOCALの石田さんは、リサーチのプロセスについて膨大な統計資料やレポートをもとに、AIを駆使して事業機会の仮説をまとめました。
 

 

石田さん「まずは、『人口減少社会と不動産』『人口減少社会と労働の未来』という大きなテーマを、人口減少、労働、暮らし(サービス)、不動産の4つにブレイクダウンしました。そして、AIを活用しながら、膨大な統計やレポートの抽出、整理を行い、現状の課題を可視化。『AIの台頭』『地政リスクの高まり』など、統計的な調査がなされていないトレンドに関しても、分かる限り反映しています。洗い出した課題から、因果関係(TOP:Theory of Problem)、変化の構造(TOC:Theory of Change)、変化のテコとなるレバレッジポイントの仮説を立てました」

 

 

レバレッジポイントの整理をもとに生まれた新たな事業機会・テーマは9つ。外国人との共生デザインや、インフラのリノベーション・新開発など多岐にわたります。

 

 

これらの仮説を携え、PGCLはフィールドワークのフェーズに入ります。「フィールドワークにより、初期仮説が具体化されたり、異なる事業機会が出てきたりすることも想定されます」と語り、石田さんは発表を終えました。

 

大分県別府市が実践する、自然・文化・産業を連関した価値創造

今回のリサーチでは、地域を「ブロック拠点」「ハブ拠点」「小さな拠点」の三層構造に分けました。規模感、参加主体、構成要素などによって、以下のように整理されています。

 

 

こうした前提のもと、プロジェクトチームが最初に向かったフィールドは、日鉄興和不動産の拠点もある大分県別府市です。フィールドワークを担当したリ・パブリックの市川さんは、現地で得られたインサイトを報告しました。

 

 

市川さん「主に『ハブ拠点』『小さな拠点』を調査しました。別府には明治期の開港以来、よそ者を受容してきた歴史があり、他者に深入りしすぎない絶妙な距離感がある。この寛容さがアーティスト等を排斥せず、多様な人々が集まる土壌をつくっています。また、障害者雇用を支える社会福祉法人の存在や、学生が人口の8%を占める多文化共生の土壌も、この町の大切な資本だということが分かりました」

こうした歴史的背景に加え、近年では「地獄蒸し*」のように、地域資源を現代的な体験価値へと再編集する動きや、次代へバトンをつなぐ創造的な生態系が見られたといいます。

市川さん「別府には、若手の挑戦を面白がり、機会を与えて応援する伝統があります。次代へバトンを渡す『インキュベーションの町』という自己認識と生態系が、昔からあります。そこに加えて、最近では、国際大学出身者による起業や公的機関のプログラムが網の目のように接続され、新たな事業や文化が生まれるエンジンになっています」

*地獄蒸し・・・地面から噴き出す温泉の噴気を利用して食材を蒸しあげる調理法

 

 

これらのインサイトをもとに、得られた知見と、次なるリサーチにつなげる問いを語り、市川さんは発表を終えました。

市川さん「別府は、寛容性と多文化共生、地域資源の再編集、育成の連鎖の3つが特徴の街です。これらと経済資本への結びつきは、今後調査を深めていきたいと思います。また、別府のように自然・文化・産業が連関し続ける『生きたエコロジー』をいかに構築し、各プレイヤーや社会の発展につなげるかについても、今後明らかにしていきたいです」

 

 

第2弾は熊本。「ブロック拠点」のリサーチを通じて仮説を磨く

イベントの後半では、登壇者全員による振り返りのディスカッションが行われました。リ・パブリックの田村大さんは、フィールドワークで見えた理想と現実について語ります。

田村さん「別府では、成熟したハブ拠点の様子を知ることができました。一方で、それより広いブロック拠点の構造は見えてこなかった。その間には断絶があり、今後どのようにつなげるかが大きなテーマです。また、別府市内にキャンパスを置く立命館アジア太平洋大学(APU)の卒業生の県内就職率は、たったの6%だという現実もあります。学生が多く寛容な町である一方、働く・就職するといった『定着』への課題はまだある。これを踏まえ、中都市における持続的な暮らやすさをどうつくるかといった部分を、今後明らかにしていければと思います」

 

 

日鉄興和不動産の佐藤は、あえて自社のフィルターを取り払いリサーチに臨む意義を強調しました。

佐藤「最初から、『日鉄興和不動産の事業に関係するもの』というフィルターをかけると、フラットにリサーチはできません。なので、一旦そこは払拭してもらって、自由に進めていただきました。その結果、さまざまな観点の議論が生まれ、幾度となく仮説も変わりました。今後、フィールドリサーチが進む中で、さらなる仮説も生まれると思います。複雑なプロジェクトではありますが、このように終わりなきリサーチと仮説を積み重ねていくことは、変化の激しい現代において、とても意味あることだと思いました」

 

 

市川さんからは、次のフィールドワークの舞台が発表されました。

市川さん「次にフィールドワークを行うのは、半導体産業によって国内外から人が集まる『熊本』。急激な地域の変化に伴うさまざまなリスクが想定される中で、どのような取り組みが行われているのかを現地で確かめていきます」

イベントの締めくくりとして、登壇者一人ひとりから今後の意気込みが語られました。

石田さん「このプロジェクトを始めてから、日々のニュースへの感度が高まりました。地域にどのように影響するのか、そしてリサーチに対してどう反映していけばいいかを考えるようになったんです。この動的なプロセスを、今後も続けていきたいです」

市川さん「見えてきた仮説を、地域に実装するところまでご一緒できればと思っています。また、できれば日本だけではなく、世界中の人口減少に困っている都市のことも視野にいながら議論をしていければと思います」

田村さん「熊本の半導体産業誘致などの施策について、市民の暮らしや小さな拠点の豊かさの観点から考えていきたいと思います。ブロック拠点の取り組みを、ハブ拠点、小さな拠点につなげていくような、新しい示唆を見つけていきたいです」

阿座上さん「投資事業を行うZ&Cとしては、一企業ではなく、地域を成長させるためにいかに投資すべきかを考えていければと思います。ここで仮説が生み出せれば、他の投資企業の参考にもなるはず。さまざまなプレイヤーと手を取り合い、高め合いながら地域の問題に取り組んでいきたいと思います」

佐藤「日鉄興和不動産の強みは、リサーチで得られたインサイトを、実際の事業としてステークホルダーの皆さまに還元していくことです。定性・定量をいったりきたりする難しいリサーチをやり切った先で、その強みを生かしていきたいと思います」

PGCLの次なるフィールドリサーチの舞台は熊本です。ボトムアップの地域振興が得意の別府と、トップダウンで変化を加速させる熊本。対照的なアプローチの両者を重ね合わせることで、初期仮説はさらに磨かれていくでしょう。引き続き、PGCLの動向を発信していきたいと思います。

 

copyしました